LAS Production Presents
Soryu Asuka Langley
in
starring Shinji Ikari
and Soryu Kyoko as Great Lady
Written by JUN
Act.3 ASUKA
- Chapter 2 -
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「な、何よ、その言い方!それに、シンちゃんって何よ、馴れ馴れしいわね!初対面の癖に!
アンタがそんなに色魔だったなんて夢にも思わなかったわ」
キョウコがシンジから離れた後、アスカは母親に向かってわめき散らした。
こともあろうにプラットホームでキョウコがシンジの唇を奪ったのである。
アスカが激昂するのは当然である。
ところがキョウコはその興奮している我が娘に、冷静に切り返した。
「一つ目。私は色魔ではありません。
私が生まれてから男性と交わしたキスは、パパとグランパ、愛するハインツ。そしてシンちゃんだけ。
二つ目。シンちゃんとは初対面ではないわ。
三つ目。シンちゃんとは今回が初めてのキスではありません。
この様子じゃ、アスカもシンちゃんとキスしたみたいだけど、私は13年前に済ませてます。
四つ目。シンちゃんはアスカのフィアンセだからママがキスしてもいいの。わかった?」
一瞬、ホームに静寂が訪れ、そして二人の絶叫が木霊した。
「ふ、フィアンセぇっ!」
「そうよ、碇シンジは惣流・アスカ・ラングレーのフィアンセよ。14年前からね」
「そ、そ、そ、そんな」
「嘘っ!また、からかってんでしょっ!」
あまりに予想外のことを言われたものだから、二人とも信じることができない。
そんな偶然があるわけない。
この海岸でたまたま出会ったのである。
「確かにアスカをからかうのは楽しいけど、今回は事実よ。信用しないの?」
「だって、聞いたことないわよ!私にフィアンセがいたなんてっ!」
「あら、よく言うわね。もともとあなたが言い出したことなのよ」
「へっ?」
「3つの時にシンちゃんの首根っこ捕まえて離さなかったの誰かしら?」
「そ、そんなの覚えてないわよ!」
シンジは必死に思い出そうとしていた。
「ユイのところに遊びに行った途端に、あなたシンちゃんにべたぁとくっついて、
帰るって言っても離れないし、最後にはワンワン泣き出すし、大変だったんだから」
「そ、そんな……」
アスカも思い出そうとしていた。
しかし、全然記憶にない。
「じゃ、結婚したら?ってユイが言ったら、あなたにっこり笑って、うんって頷いたのよ」
「で、でも…」
シンジがおずおずと切り出した。
アスカが自分のフィアンセなんて、嬉しすぎて実感がわかない。
それよりも解せないことが多すぎる。
「なぁに?シンちゃん」
キョウコがシンジに笑顔を向けた。
ああ、物凄く綺麗だ…。
アスカもこんな感じになるんだろうか…?
危うく妄想の世界に突入しそうになったシンジは、何とか踏みとどまり質問を続けた。
「あの…僕の母さんと…えっと…」
シンジはキョウコのことを何と呼ぼうか迷った。
アスカに似てるのなら、“おばさん”などと呼べばこの身がどうなってしまうのか見当もつかない。
でも“おねえさん”などとよいしょをすれば、間違いなくアスカの機嫌を損なう。
「私のこと?ママでいいわよ」
「ま、ママぁっ?」
口が聞けなくなったシンジの代わりに、アスカが叫んでくれた。
「アンタ馬鹿ぁ?この年齢でママなんて言う男の子がいると思う?マザコンに見られちゃうじゃない!」
「アスカ…」
キョウコの口調と表情が変わった。
声は低く、細めた目は冷たく、アスカを見据えている。
アスカは本能的にシンジの背中へと移動した。
「親に向かって、馬鹿とは何?許しませんよ」
「し、シンジ、助けて…」
か細い声で助けを求めるアスカにシンジは萌えた。いや、燃えたが正しい。
しかし、こんなアスカも大好きだと思ったのだから、萌えたでもよかったかもしれない。
ともあれ、シンジは胸を張った。
「アスカのママ、アスカを苛めないでください」
「あらぁ、私、そんなことしないわよ」
表情ががらりと変わった。
こんな笑顔でアスカも自分を見つめてくれないかなぁ…。
そんなことを思わず思ってしまうほど、美しい笑顔だった。
「そ、そんな笑顔でシンジをたぶらかすな!」
「アスカ!」
「ひぃっ!」
シンジの背中から顔を出したかと思うと、すぐに隠れるアスカ。
あのアスカがこんなに恐れているだなんて、いったいこの二人にどんな過去があるんだろうか?
シンジの疑問は膨らんだ。
「で、何かな?シンちゃん」
「あ、えっと、あの…僕の母さんと…アスカのママは不倶戴天の仇敵じゃないんですか?」
「はい?」
「だって、僕聞いたんですよ。小学校2年の時に。キョウコを殺してやるって」
「はははははっ!」
腕組みをして、キョウコが高笑いをした。
やっぱり親子だ…。
「私とユイは親友よ。そのときはたまたま喧嘩してたんでしょ」
「ええっ!それだけのことだったんですか?」
「そうね、1月に一度は大喧嘩してるわよ。アイツ超頑固者なんだから、始末に悪いわ」
「ちょっと待ってよ」
「何?アスカ」
アスカは顔も出さずに、シンジの背中に頭をつけて喋る。
「親友だったら、どうして会わないのよ。
私そんな人知らないわよ。シンジだって覚えてないくらいよ」
「職場ではイヤというほど会ってるわ。プライベートで会わないのは、忙しいから。
あなたとシンちゃんを会わさなかったのは…」
アスカがシンジのTシャツをぎゅっと握った。
「お嫁入りするかお婿に貰うか、意見が対立したの。
だから大きくなるまで婚約を凍結したわけ。
あ、だからと言って、解消したんじゃないわよ。あくまで凍結。
だからアスカが浮気をしないように女子専門の学校に入れたの」
「え?あれって私が乱暴だから入れたんじゃなかったの?」
「いいえ。あなたの乱暴が直るわけないじゃない?」
「で、でも、僕も何も聞いてないですよ。
それどころか早く恋人作りなさいって、毎日のように言われて…」
「何それ」
キョウコがシンジを見据えた。
あわわわ!確かに怖い。
シンジはアスカの気持ちがわかったような気がした。
「誰がそんなこと言ったの。ユイ?」
シンジは頷くしかなかった。
その瞬間、キョウコは携帯電話を取り出し、ユイの番号を呼び出した。
「もしもし、私。アンタ、シンちゃんに恋人作れって唆してたんですってぇっ!
シンちゃんには、うちのアスカっていうれっきとしたフィアンセがあるんですからね、
どうしてそんなことするのよ!アンタ、馬鹿ぁっ!」
ああ、親子だ。
早口でまくし立てるキョウコの声で、ユイの返事はまったく聞こえない。
しばらく罵詈雑言を一方的に浴びせた後、キョウコは通話を切った。
「はん!だって、面白いじゃない、だってさ。あの馬鹿っ!」
ああ、母さんらしいや…。
シンジは思った。
僕に彼女を作らせておいてからどんでん返しをする。
僕やその彼女のことなんか全然考えてない。
よかった…もててなくて。
シンジは心底からそう思った。
キョウコは大きく息を吸い込むと、ほっと溜息を吐いた。
「ま、確かに面白そうだけどさ…」
「あの…」
「なぁに、シンちゃん」
「ぼ、僕とアスカは偶然出会ったんですよ。そんなのって」
「あら、ここに来たのは偶然じゃないわよ。私が手配したんだもの」
「ええっ!嘘。あれはヒカリが商店街の福引でここの旅館のクーポン券を当てたんじゃ…」
キョウコはニコニコ笑っている。
その笑顔をシンジの肩越しにちらりと見たアスカは確信した。
謀ったわね…この悪徳弁護士。
「ただ、場を作ったけど、あんな感じで出会うなんて、やっぱり二人は運命の二人だったのね。
シンちゃん、真昼間からアスカに襲い掛かったんだって?」
「ち、ち、ち、違います!あれは事故です!」
「事故ねぇ。じゃ、あのファーストキスも事故だっていうの?」
「はぁ?」
「あなた達が始めて会った時ね、シンちゃんがアスカにキスしたの。ぶちゅぅっって」
「げっ!」「嘘っ!」
「ママたちがいつもしてるからって。あなたにこにこ笑いながら言ったのよ」
「そ、そんな…」
その時、背後のアスカがシンジの首を右手で抱え込んだ。
「うげっ!」
「アンタ、何てことすんのよ!幼児にキスするだなんて、アンタ犯罪者?ロリコン?」
「ぼ、僕も幼児だったんじゃないか」
「あ、そっか。でも、そのキスも事故だって言うの?」
「き、きっとそうだよ。事故。事故だよ」
「違うわよ。可愛いからキスしたってはっきり言ってたわ、シンちゃん」
「ああっ!そ、そんなの覚えてません」
「酷いわね。しらばっくれて…。アスカ、いいからやっておしまいなさい」
「わかったわ、ママ!」
アスカがヘッドロックでシンジをぐいぐいと締め上げる。
気が遠くなりながらも、左側頭部に当たっている柔らかい膨らみに嬉しくなってしまうシンジだった。
数分後、レイの洋館を目指して歩く3人がいた。
もちろん、先ほど駅で大騒ぎをしていた3人である。
「このまま真っ直ぐでいいのね」
「そうよ!」
先頭を何故かキョウコが歩き、その3mほど後ろをアスカとシンジが並んで歩いている。
二人の後ろを歩くのはイヤらしい。
キョウコは鼻歌まじりでぶらぶら歩き、アスカはニヤニヤしながら歩いている。
ところがアスカがフィアンセだとわかって幸せなはずのシンジだけが浮かない顔をしている。
それはアスカにはっきりと婚約解消を言い渡されたからだ。
「何考えてんのよね、もう、うちの親どもは。
3つの子供の言う事で将来決めてどうすんのよね」
「う、うん…」
「大丈夫!私はアンタを縛りつけようとはしないから。彼女ができたら勝手に結婚でも何でもしてもいいわよ」
「え…」
「そうねぇ、でも、結婚式には呼んで欲しいものだわ。最高級の料理出してよね」
「うっ…」
「ああっ!コイツ、私を出席させないつもりだな!信じらんないっ!
こら、馬鹿シンジ、約束しろ。私をアンタの結婚式に出席させるって」
「わ、わかったよ」
シンジは了承するしかなかった。
「へっへっへ…ラッキー!その代わり、私のときも呼んであげるからさ」
シンジはやっとのことで言葉を発した。
「あ、アスカは…誰と結婚するの?」
「はい?あ、ああ、相手のことね。さあ、誰なんだろ?」
「す、好きな人、いないの?」
「いるわけないじゃん!この私が好きになるような男なんて、そう簡単に見つかるわけないでしょ!」
「じゃ…探してるんだ」
「へ?そんなの探してないわよ。馬鹿らしい!恋人なんかとベタベタするより、アンタといる方が楽しいもん!」
よく通るアスカの声だ。
キョウコはシンジを可哀相だと思った。
シンジは明らかに娘のことを好きだ。
ところがその娘の方はまだ子供っぽさが抜けていない。
シンジに好意を持っていることを友情だと誤解しているのだ。
まあ、仕方がないか。
こればっかりは自分で気づくしかないからね。
道路に落ちていた小枝を指で弄びながら、キョウコは歩き続けた。
多分、そのうちに気づくでしょ。
しかもそれはすぐそばまで来ている。
そんな予感がするキョウコだった。
「はん!依頼料は勝てばその中からしっかりいただくし、絶対に勝ってみせますわっ!」
数日前にアスカが言ったのと同じ台詞をキョウコが吐いた。
笑いをこらえるのが少し苦しい冬月だった。
いい親子だ。
この場にいないアスカとキョウコをダブらせて彼はそう思う。
本当にいい人たちに会うことができた。
あの事件以来信仰心を失いかけていた冬月は、服の上から胸のクロスを押さえた。
神様、ありがとうございます。
アスカはレイたちに挨拶してから、夏祭りに向かった。
レイとカヲルも誘ったのだが、二人でいる方がいいそうだ。
そう言われると無理には誘えない。
それに二人は目配せをしていた。
僕たちはお邪魔虫にすぎないから遠慮しておこうと。
ということで、今、アスカとシンジは神社の石段を登っている。
アスカは着慣れない和服に往生している。
さっきまでTシャツにホットパンツだったのに、何故浴衣を着ているのだろうか?
キョウコが用意していたのである。
レイの洋館を出ようとした時に、いきなり着替えさせられたのである。
さすがにアスカも女の子だ。
浴衣を着せられると、やはり嬉しくなってくる。
真新しい草履を履いて、鏡の前に立つと思わずニコニコ笑ってしまう。
着付けを手伝ったレイも「綺麗ね」とアスカを心から褒めた。
外で待たされていたシンジも、嬉しそうに玄関から出てきたアスカを見て、言葉を失った。
こうなると、ジーパンにTシャツの自分がつりあわない様な気がするが、仕方がない。
アスカはシンジをエスコート役に決めているのだし、シンジもそうしたい。
歩きにくそうなアスカの手を取って、シンジは歩き出した。
ただ、この石段は難物である。
アスカは勢いよく登りたいのだが、草履と裾がそれを許さない。
一段づつゆっくりと登るしかない。
シンジの腕に縋りながら。
そのシンジは考えていた。
浴衣って何と色っぽいのだろうと。
つい先程まで、アスカが穿いていたのはデニムのホットパンツ。
すらりと伸びた長い脚が全部見えている刺激的な光景だった。
その脚が、今は全部隠されている。
しかし、アスカが石段を登り裾が乱れる時にちらりと見える、ふくろはぎの白さは頭がくらくらしそうに悩ましい。
その上あけすけなアスカはとんでもないことをシンジに教えていた。
「もう!ママったら、ブラまで剥ぎ取ったのよ!ノーブラなんてすーすーして気持ち悪いわ!」
ノーブラ。
あの浴衣の襟をくつろげると、アスカの乳房を拝むことができる。
シンジにとって、それは悪魔の囁き以外の何者でもなかった。
しかも、アスカは両家の親公認のフィアンセである。
認めていないのはアスカ本人だけ。
シンジは大々的に認めている。
後はアスカさえOKすれば、アスカはシンジの奥さんになるのだ。
しかし、狼になるにはシンジは良識がありすぎ、アスカは純粋すぎた。
ということで、シンジは誘惑を抑えてひたすら上を目指した。
ただし、胸元と裾には時々目を走らせながら。
夏祭りの境内は人でごった返していた。
盆踊りをする広場と、露店が並ぶ参道。
マナとケンスケは盆踊りをしていた。
「ははは!あなた、へたっぴいねぇ。何その腰つきは」
「仕方ないだろ。カメラ提げて踊るの難しいんだぞ」
「預けりゃいいのに」
「預けたら撮れないだろ」
そう言うと、ケンスケはさっとカメラを構えてマナを撮った。
ぴかっ!かしゃっ。
「もう!眩しいじゃない!」
突然のフラッシュに膨れながらも、どこか嬉しくて仕方がない。
何かイヤだな…。
マナは思う。
情が移るってこういうことなのかもしれない。
このカメラオタクに会うたびに、だんだん楽しくなってきている。
そんな自分を否定できない。
ただ、この気持ちが時間がたっても色褪せないものなのかどうか、マナには自信がなかった。
「もう…疲れたよ。休もうぜ」
「体力ないんだ。もっと鍛えなさいよ」
毒づきながらも、マナは素直に踊りの輪から離れた。
その時、首をぐるぐる回していたケンスケが参道を歩くアスカたちを見つけた。
「あ、シンジたちだ。合流しようぜ」
「待って」
マナはアスカを見つめた。
どうして浴衣を着ているんだろうか?
まさかキョウコが用意したとはマナには想像もできない。
彼女はシンジが用意したのだと思い込んだ。
「いいよ。一緒にならなくても」
すぐに目を逸らしたマナにケンスケはシンジへの想いの名残を感じた。
まだ、好きなんだ。
「踊ろうか、な!」
「何言ってんの。ふらふらだったくせに」
「いや、ぶっ倒れるまで踊ろうぜ」
「倒れたら置いていくよ」
「酷いなぁ」
大仰にぼやくケンスケに自分への心遣いを感じたマナは、少しだけ嬉しかった。
「ねえ、相田君」
「何だよ」
「あなたって…」
「……」
「ひと夏の恋の相手には、役不足だねっ!」
甘い言葉を期待していたケンスケはがっくり来た。
だが、それもそうかもな…と客観的に自分を見てしまい納得してしまった。
彼女の言葉の真意を掴むこともできず。
ひと夏の恋の相手ではないということを。
「ケンスケもトウジも見当たらないなぁ…」
「そうね、もう帰ったのかしら?」
「どうだろ…」
盆踊りに興味がなく、露店を回るのが楽しくて仕方がないアスカだった。
したがって、盆踊りの輪の中にいるマナとケンスケには気づかず、
ましてや少し離れた森の中で情熱的なキスを交わしているヒカリとトウジの存在など想像もできなかったのである。
「まあ、いいじゃない。シンジ、、金魚すくいで勝負よっ!」
「うん!」
浴衣の袖を捲り上げて、金魚を狙うアスカ。
せっかくの浴衣が可哀相なくらい、子供っぽい仕草だ。
ただ、その白い腕がシンジには眩しく、
隙間が見えそうで見えない襟元の肌の白さは吸い込まれそうである。
そんな状態で金魚を掬えるわけがない。
シンジ2匹に対して、アスカ19匹。
アスカの圧勝であった。
賞品の金魚は飼えないからと辞退して、次の露店に移る。
隣は射的屋である。
的を狙いながら、アスカはまだぼやいていた。
「悔しいっ!もう1匹で20匹の大台だったのに!輪だけでも掬えんのに!くそっ!」
そんなに騒いでいながらも、的は外さない。
ただ大物を狙いすぎるので、当たり所が余程よくないと賞品は落ちてくれない。
シンジの方は落ちそうなものを狙っているので、すでにシガレットチョコを2つゲットしていた。
「くわっ!もう1回!」
すっかり熱くなっているアスカに、シンジは援護射撃をしようと考えた。
自分も弾を貰って、アスカの狙っているぬいぐるみに照準を合わせる
ぱんっ。
アスカの弾が当たって少し揺れたところを狙って撃つ。
ぱんっ。
アスカの目が輝いた。
続けて撃つ。シンジも続く。
二人の息のあった攻撃にぬいぐるみは大きく揺れ始めた。
そして、7発目でぬいぐるみはついに台から落ちた。
「そんなことをされちゃ、たまんねぇなぁ。まあいいや。持ってけや」
「アリガト、おじさん!」
苦笑しながら鉢巻姿の対象は落とされたぬいぐるみをアスカにお手渡す。
アスカはやっと手に入れたお猿のぬいぐるみにご満悦である。
左手にそのぬいぐるみの腕をまきつけて、右手でよしよしと撫でている。
「ほら見て、シンジ。可愛いでしょ。ぼけっとした顔してさ、はは、アンタそっくり」
シンジはどう反応したらいいのかわからなかた。
ぬいぐるみ扱いされたことを怒ればいいのか、それとも可愛いといわれたことを喜べばいいのか。
ともかくアスカは天衣無縫である。
散々遊んだ上で、二人は民宿に戻った。
そこでキョウコからの伝言を受け取ると、何とキョウコはすでに東京に戻ったらしい。
浴衣は宅急便で送り返せとのことである。
「もう!勝手なんだから。着払いにしてやろぉっと」
「アスカ。脱げるの?」
「はん!脱ぐだけならお茶の子よ!」
「へぇ、そうなんだ。着られないから、脱げないと思ってた」
「何よ!喧嘩売る気?じゃ、脱げるってこと見せてあげようか?」
アスカは両手を腰にやって、シンジを睨んだ。
シンジは浴衣の下はノーブラだということを知っている。
思わず、真っ赤になってしまった。
「なぁ〜んてね。はははっ!」
大笑いしてアスカは階段を登っていく。
シンジは唇を尖らせてその後に続いた。
踊り場を回って、2階の最上段にアスカが足を踏み出した時…。
和服に慣れないアスカが裾を自分で踏んでしまった。
「きゃっ!」
バランスを崩して背中から落ちるアスカの身体をシンジは下から受け止めた。
目を瞑り、足を踏ん張って、アスカが怪我をしないようにしっかりと…。
大きな衝撃が去り、アスカの身体はシンジの腕の中に納まっていた。
はぁ…よかったぁ。
「アスカ、大丈夫?」
アスカは無言である。
「ど、どうしたの?」
なおも無言のアスカ。
その背中が微妙に震えているのが、シンジの胸に伝わってくる。
「怪我…したの?」
「手」
「手?」
シンジは左手を見た。
アスカの肩をしっかりと掴んでいる。
指をもぐもぐと動かせると襟元がその動きにつられてふくらむ。
「……そっちじゃない」
「へ?」
シンジは言われるがままに、今度は右手の指を動かした。
ぷにゅぷにゅとしたこれまで触ったことのない、不思議な感触が掌に伝わる。
あれ?何これ?
シンジはさらに指に力を入れた。
すると指の間に何か小さなものが挟まった。
これは…。
「も、揉むなぁぁっ!」
「ふえっ?」
アスカが全身の力を込めて、シンジを振りほどいた。
「うわっ!」
たった2段だったが、シンジが踊り場まで転落する。
「痛っ…」
尻餅をついたお尻を擦りながら、アスカを見上げると…。
アスカの浴衣の襟は大きくくつろぎ、左の乳房は完全に露出していた。
白い肌。お椀を伏せたような形のいい胸の隆起。そして、ピンク色の乳首。
「わっ!」
シンジは慌てて手で目を覆った。
そして、その右手に残っているぬくもりの正体に気づいた。
シンジの右手は襟元から忍び入り、アスカの乳房を掴んでいたのであった。
その上、気がつかないままに何度も揉みあげていたのだ。
「こ、この、スケベ!エッチ!変態!二度と顔見せるなぁっ!」
胸元を急いで合わせると、アスカは足音も猛々しく3階へ向かった。
シンジは尻餅をついたまま、いつまでも自分の右の掌を見つめていた。
TO BE CONTINUED
<あとがき>
アスカ編その2です。
せっかくの公然のフィアンセだったのにアスカにはあっさりいなされてしまいましたが…。
シンジお得意の「事故」攻撃が出ました!
被害者はアスカの無垢なる左胸。
次回はいよいよ…って、濃厚には書きませんよ、はい。
2003.10.22 ジュン
感想などいただければ、感激の至りです。作者=ジュンへのメールはこちらへ 掲示板も設置しました。掲示板はこちら |